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クウェンヤ(Quenya /'kwɛnja/)とは、1910年~1911年ごろ、ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン(John Ronald Reuel Tolkien, 1892年1月3日 - 1973年9月2日)によって創案された芸術言語である。
審美的コンセプトは、「古風と屈折」であり、フィンランド語、ラテン語、ギリシャ語、古代ゲルマン語などの、動詞や名詞の屈折の多かったころの古風な印欧語族の言語を思わせる作りである。
この言語の背景として、話者やそれが使われる世界の設定が必要となったため、エルフ族や後に中つ国と呼ばれる人工世界が誕生することとなった。
彼の人工世界、中つ国の住民たるエルフが古くに用い、アマンに渡った上のエルフ(High Elves)によって保存され、太陽紀第一紀ごろには、もっぱら儀式と詩に使われる古典言語となっている。


テンプレート

2014/02/23
クウェンヤ
Quenya
発音 IPA: /'kwɛnja/ 
発案者/作成者 John Ronald Reuel Tolkien(1892年1月3日 - 1973年9月2日)
創案時期 1910年ごろ。1973年に逝去するまで使用
設定と使用 中つ国の作中言語
エルダール(上のエルフ)の言語。
ラテン語のように古語として扱われる
母語話者数 不明
表記体系 ラテン文字
tengwar, cirth salati
目的による分類 人工言語
・芸術言語>架空言語
参考言語による分類 音声:フィンランド語
語彙:音象徴、フィンランド語、語形だけ古英語から借用
文字:アプリオリ
文法:フィンランド語、ラテン語、ギリシャ語、古代ゲルマン語
語法:

名称

トールキンによってelfin, Qenya(1915年ごろ)など変遷があったが、最終的にQuenyaとなった。
Quenyaの意味は「言葉」である。
エルフの元々の名称Quendi(話す者)と関係する単語である。

作製史

J.R.R.トールキンが、バーミンガムのキング・エドワード学校時代、1910年~1911年ごろに創案した。1973年に逝去するまで、発展を続けた。

作りたての人工言語によくあるように、何度も実験的な文法改定が行われた様である。

Elfin, Qenya(1910-1920)

1910-1920年 英語でElfin, Qenya語(初期クウェンヤ語)でEldarissa
絶え間ない改定作業の最中であり、主に屈折と代名詞のシステムが絶えまなく変動した。ただ、語彙に関しては、意味の変動はあっても、あまり語形の変動がなかったという。
対格形が違っていたり、後期では廃止された子音連続などがあったとされる。
後期では消滅したanatarwesta(crucifixion 十字架による磔)や、evandilyon(gospel 福音)などのキリスト教を暗示させる単語が含まれていた。
フィンランド語の影響があって、後期の屈折語的な言語とは違い、膠着語的な言語だったとされる。

1930年代初期

1930年代初期、ヴァラール語(Valarin)を祖語とし、エルフの言葉はそこから派生したものだという設定ができる。
そして、音声対照表に従って、音韻変化させ、多数の派生言語を作成した。アルカで言う方言爆発(2008年11月)を思わせる事例である。
初期クウェンヤ語(Qenya)、その方言であるリンダール語(Lindarin)、テレリ語(Telerin)、古ノルドール語Old Noldorin (or Feanorian)、ノルドール語(Noldorin)、イルコール語(Illcorin)、オスシリアンドの人間語、東の人間語、タリスカ(Taliska, 後のドゥネダインになる人間たちの言語)、西リンベール語(West Lemberin)、北リンベール語(North Lemberin)、東リンベール語(East Lemberin)など、多数のヴァリエーションが発生した。
古風な屈折形である双数形も存在したとされる。

1940年ごろ?

エルフ諸語の起源は、ヴァラール語ではなく、エルフが自ら作った言語であるクウェンディ語(Quenderin)が起源であるという設定になった。
エルフ語族は、クウェンヤ、テレリ語、シンダール語、ナンドール語から構成される。
クウェンヤはmbなどの語頭音がmなどの鼻音に変化したグループという設定になった。

例:ndore→nore (国)
テレリやシンダール系統では、鼻音でないところが残ったとされ、国はdorである。


後期クウェンヤ(late Quenya,1954-1973)

1954-1973年 後期クウェンヤ(late Quenya)
『指輪物語』出版後は、僅かな変化しかなく仕様が確定したと見られる。

作中設定

エルベレスによって、星が誕生し、エルフが目覚めた後、エルフを見に行ったヴァラールのオロメが彼らに話しかけた言語であるヴァラール語(Valarin)を元にして発達した。
アマンへ移住した上のエルフ、エルダールによって話された。
一方で、中つ国にとどまったエルフであるシンダール族は、これからシンダール語を発展させた。
上のエルフ、ノルドール族が中つ国へ帰還した際、圧倒的多数であるシンダール族に混ざって生活するための利便や、シンダール族の王であるエルウェ・シンゴルロ、シンダール語でいうシンゴル王からクウェンヤの使用を禁止されたため、クウェンヤは、もっぱら古語、伝承、詩、儀式などで使う非日常的な言語になっている。

音声

ラテン語よりもフィンランド語に近いとされる。
しかし、フィンランド語に見られる子音交代や、第一音節拘束アクセントは採用されていない。

子音

中つ国に伝わったノルドール族のクウェンヤであるノルドール語の子音。

両唇 歯唇 歯茎 後部歯茎 硬口蓋 軟口蓋 口蓋垂 声門
破裂音 p[p] b[b] t[t̪] d[d̪] c[k] g[g]
鼻音 m[m] n[n] ñ[ŋ]
ふるえ音 r[r]
摩擦音 f[f] v[v] s[s] - hy/h[ç] ch[x] h[h]
接近音 hw[ʍ] w[β̞] y[j]
側面接近音 l[l]

  • t, dの発音がスペイン語式の歯音
  • フィンランド語の影響でvを除き、有声摩擦音がない。
  • アマンのヴァンヤール語(Vanyarin)では、無声歯舌摩擦音th/θ/とz/z/が現れるが、中つ国に移住したノルドール族のクウェンヤでは、rとsに置換される。
  • 有声破裂音は鼻音と流音の後(例:/mb, (lb,) nd, ld, rd, ŋg/)と、母音と母音の間にしか現れない。

母音

5つの短母音、i[i], e[ɛ], a[a], o[ɔ], u[u]
5つの長母音、í[i:] é[e:] á[a:] ó[o:] ú[u:]
を持つ。
e, oは短音では広めに発音しe[ɛ]、o[ɔ]になるため、7つの母音をもつ。

前舌 後舌
i[i] í[i:] u[u] ú[u:]
半狭 é[e:] ó[o:]
半広 e[ɛ] o[ɔ]
a[a] á[a:]

二重母音

以下の6つの二重母音を持つ。最初の母音を強く読む。
ui, oi, ai
iu, eu, au

iuは第三紀ではyuのように発音される傾向。この場合はuの方を強く読む。

上以外は二音節で発音すること。
ëa, ëo, oë

アクセント

アクセント法則

1. 二音節の単語では、第一音節にアクセント
※dûn(西)から派生するannûn(日没)、rhûn(東)から派生するanrûnなど、接頭辞+本体の場合は例外となる。

2. 三音節以上の単語かつ、最後から二番目の音節が長母音、二重母音、二つ以上の子音を伴う母音の場合、最後から二番目の音節にアクセント。 isIldur elentÁri periAnnath pelArgir silIvren andÚne

3. 三音節以上の単語かつ、最後から二番目の音節が短母音、後に伴う子音がないか1つしかない場合は、最後から三番目がアクセント。 Orome, erEssëa, fËanor, ancAlima, dEnethor(thは1子音でカウント) , ecthElion

音素配列論

  • 次の二重子音のみが現れる。pp, tt, cc (kk); mm, nn; ss, ll, rr, þþ(ノルドール族のクウェンヤではssになる)。これらは語中のみで現れる。破裂音の二重子音は帯気音になる。
  • 語末の子音は歯音のみである。n, r, l, s, th (þ), t, z。þとzはノルドール語では、sとrになる。
  • 語頭の子音は次の子音のみである。p, t, c (k); f, þ, s, h, hy, hw; m, n, ñ; v, l, r, y, w
  • 語頭の二重子音は次のもののみである。hl, hr; x (ks), ps; ty, ny, ly; qu (kw), ñw(ノルドール語ではnwになる。)
  • 語中の二重子音は次の者のみである。よく使うものは太字。ht, lc,ld, lf, lm, lp, lqu, lt, lv, lw, ly,mb, mn,mp, my,nc (ñc),nd,ng (ñg),nt,nw (ñwは語頭のみ), ny,ps, pt,qu (kw), rc, rd, rm, rn, rp, rt, rs, rv, rw, ry, sc, st, sw,ts, tw, ty,x (ks)
  • クウェンヤは三重子音以上の子音連続は存在しない。c(k), h, gのあとに、h, t, þ, dのあとに、yがある場合は例外である。よって、次の12の三重子音が存在する。
nqu(ñqu)[ŋkʷw], lqu, rqu, squ, ngu(ñgu)[ŋgʷw], rhw; nty, lty, hty [çc](ヴァンヤール語では[ʃt͡ʃ]と発音), rty, sty [sc] (ヴァンヤール語では[ʃt͡ʃ]と発音), lhy。それ以外の組合せでは、y, wがiとuになる。
  • クウェンヤは、二つの異なる閉鎖音の連続を認めない。
  • シンダール語同様、ftの組合せは避けられる。

文字

ラテン文字転写

中つ国の諸言語共通のラテン文字転写法を示す。

  • 子音
c[k] celeb[keleb] 銀
ch[x] ドイツ語のbachとかachtみたいな感じ。
dh[ð] thisとか、theseのth音
f[f] 語末で[v]
g[g] gil[gil] 星
gh[ɣ]有声軟口蓋摩擦音。黒の言葉とオーク語で使われる。
h[h]
ht[xt]
I[i/j] 後に母音を伴う場合[j] Iarwain ヤールワイン
k[k] エルフ諸語以外でもちいる。
kh[x]
ドワーフ語では帯気音のk
l[l]
lh 無声化したl
hl 無声化したl
ng[ng]
ph[f] p音が音韻変化してf音になった時に現れやすい
qu[kw] quenyaで仕様頻度多
r[r] 震え音。ゴルァ音
rh 無声化r
hr 無声化r
s[s]
sh[ʃ] シャ行
th[θ] thinkやclothなどの音。
ドワーフ語では帯気音のt
ty チューンとか、トューンみたいな。
v[v]
w[w]
hw 無声化したh
y[j]

  • 母音
i e a o u yの六種類。yはだいたいラテン語読みでOK。ゴンドールではyはiで発音されている。

ë
目立つように点を置いているのみ。英語と違って語末でもちゃんと発音することを目立たせるために使われることが多い。

  • 長母音
í é á ó ú ý
伸ばして発音する。

ホビット庄ではéを[ei]、óを[ou]と発音する傾向がある。粗野で不正確な発音とされた。

  • 長母音+アクセント
î ê â ô û
さらに長く伸ばして発音する。

  • 二重母音
すべて、二重母音の最初の母音にアクセントをつけて発音すること。

    • クウェンヤ
ui, oi, ai
iu, eu, au

iuは第三紀ではyuのように発音される傾向。

上以外は二音節で発音すること。
ëa, ëo, oë

    • シンダール語
ae[ai], ai, ei,
oe[oi],
iu, au

aw 語頭におけるauの別字体
上以外は二音節で発音

    • ローハン語
éa éo

語彙

アプリオリ言語として、音象徴や展開分類法の流派の手法を用いたとされる。
シンダール語など、この言語の派生言語を作る時、現実でもみられるような音韻変化の法則を用いた。

また、Earendir(偉大なる美)など、古英語の詩から語形だけ借用し、意味を「海の愛」に
変えるパターンもある。

少数の語彙は、tul-(来る)、anta-(与える)など、フィンランド語の語彙に由来している。

推定語彙数

Kloczko, Edward (2008). L'Encyclopedie des Elfes (in French)によると、エルフ語全体で約25.000語あるというが、クウェンヤ単体での単語数は不明である。
ambar eldaron Quenya - English Dictionaryを見る限り、クウェンヤ語の単語数は3000語程度と推測される。


文法

現実で言う後期クウェンヤ(late Quenya, 1954-1973)、フィクションで言う第三紀の中つ国のクウェンヤの文法。
動詞、名詞、代名詞、限定詞、形容詞、前置詞などの品詞がある。

統語

ラテン語同様屈折語であるため、語順は比較的自由である。
とはいえ、一般的にSVO語順が好まれる。
基本的な語順はSOV語順だともされる。
形容詞は修飾する名詞の直後または直前につく。ラテン語のように離れていても大丈夫ということはない。感覚としてはエスペラントに近い。

類型

膠着語であり、接尾辞を用いる。

名詞

格と数で曲用する。
数は、単数、総複数、部分複数、双数の4種類ある。
総複数はEldarのようにエルフという種族全体を指している。
部分複数Eldaliは、エルフという種族の中の特定の複数を表わしていて、エルフ全体をさしてはいない。

複数は、名詞の主格形に次の接尾辞を付けて作る。
総複数 -iまたは-r Parmaquesta(文語)では-iは-íと伸ばす。
部分複数 -li Parmaquesta(文語)では-líと伸ばす。

lasse "葉" lassi [総複数] "この世全ての葉というもの全体" lasseli [部分複数]葉たち
alda "木" aldar [総複数] "この世全ての木というもの全体" aldali [部分複数]木たち
Elda "エルフ" Eldar [総複数] "種族としてのエルフ" Eldali [部分複数] エルフたち


Parmaquesta(文語)では10の格が存在する。
4つの基本格、主格・対格・属格・具格
3つの副詞格、向格(与格はこれの短縮形)・場格(これの短縮形あり)・奪格
所有格、形容詞格

対格は文語に用い、後期クウェンヤの口語では対格は主格形に置き変えられる。

○基本格
主格:~が。動詞の主語
対格:~を。動詞の直接目的語
属格:~の。主に出自を表す(例:フランスのベストパートナー)。奪格(~から)のようにつかうことも、形容詞のように使うこともある。
具格:~で。~を用いて。

○副詞格
向格:~へ。~へ向かって。動作の向かう先を表す。elenna(星へ向かって)
与格:~に。動詞の間接目的語。
場格:~で。~の場所で。場所や位置を表す。Lóriendesse(ローリエンで)
脱格:~から。~より。動作が来るところを表す。earello(海から)

○その他
形容詞格:~の。品質を表したり、名詞を形容詞化したりする。また所有権を表す。口語では、この用法は属格が用いられることがある。

単数 cirya 船 lassë 葉 ondo 石 nér 男 cas 頭
主格 cirya 船が lassë 葉が ondo 石が nér 男が cas 頭が
対格 ciryá 船を lassé 葉を ondo 石を nera 男を cara 頭を
属格 ciryó 船の lassëo 葉の ondo 石の nero 男の caro 頭の
具格 ciryanen 船で lassenen 葉で ondoinen 石で nerinen 男で carinen 頭で
向格 ciryanna 船へ lassenna 葉へ ondonta 石へ nérta 男へ casta 頭へ
与格 ciryan 船に lassen 葉に ondor 石に neren 男に caren 頭に
場格 ciryassë 船で lassessë 葉で ondosse 石で nerissë 男で casse 頭で
短縮場格 ciryas 船で lasses 葉で ondos 石で neris 男で cas 頭で
脱格 ciryallo 船から lassello 葉から ondollo 石から nerullo 男から callo, carullo 頭から
形容詞格 ciryava 船の lasseva 葉の ondova 石の nerwa 男の carwa 頭の


総複数 cirya 船 lassë 葉
主格 ciryar 船らが lassí 葉らが
対格 ciryai 船らを lassí 葉らを
属格 ciryaron 船らの lassion 葉らの
具格 ciryainen 船らで lasslassínen 葉らで
向格 ciryannar 船らへ lassennar 葉らへ
与格 ciryain 船らに lassin 葉らに
場格 ciryassen 船で lassessen 葉らで
短縮場格 ciryais 船らで lassis 葉らで
脱格 ciryallon 船らから lassellon 葉らから


部分複数 cirya 船 lassë 葉 ondo 石 nér 男 cas 頭
主格 ciryalí 船らが lasselí 葉らが ondoli 石らが ? 男らが cari 頭らが
対格 ciryalí 船らを lasselí 葉らを ondoli 石らを ? 男らを ? 頭らを
属格 ciryalion 船らの lasselion 葉らの ondolion 石らの ? 男らの ? 頭らの
具格 ciryalínen 船らで lasselínen 葉らで ondolínen 石らで ? 男らで ? 頭らで
向格 ciryalinna(r) 船らへ lasselinna(r) 葉らへ ondolinta(n) 石らへ ? 男らへ ? 頭らへ
与格 ciryalin 船らに lasselin 葉らに ondolir 石らに ? 男らに ? 頭らに
場格 ciryalisse(n) 船らで lasselisse(n) 葉らで ondolissen 石らで ? 男らで ? 頭らで
短縮場格 ciryalis 船らで lasselis 葉らで ? 石らで ? 男らで ? 頭らで
脱格 ciryalillo(n) 船らから lasselillo(n) 葉らから ondolillon 石らから ? 男らから ? 頭らから
形容詞格 ciryalíva 船らの lasselíva 葉らの ? 石らの ? 男らの ? 頭らの

双数 cirya 船 lassë 葉 ondo 石 nér 男 cas 頭
主格 ciryat 二隻の船が lasset 二枚の葉が ondos 二つの石が nerut 二人の男が carut 二つの頭が
対格 ciryat 二隻の船を lasset 二枚の葉を ondos 二つの石を nerut 二人の男を carut 二つの頭を
属格 ciryato 二隻の船の lasseto 二枚の葉の ondu 二つの石の neru 二人の男の caru 二つの頭の
具格 ciryanten 二隻の船で lassenten 二枚の葉で ondoinent 二つの石で ? 二人の男で ? 二つの頭で
向格 ciryanta 二隻の船へ lassenta 二枚の葉へ ondontas 二つの石へ ? 二人の男へ ? 二つの頭へ
与格 ciryant 二隻の船に lassenr 二枚の葉に ondur 二つの石に nerur 二人の男に carur 二つの頭に
場格 ciryatsë 二隻の船で lassersë 二枚の葉で ondoset 二つの石で ? 二人の男で ? 二つの頭で
脱格 ciryalto 二隻の船から lasselto 二枚の葉から ondollut 二つの石から ? 二人の男から ? 二つの頭から

代名詞

トールキンの生涯の中で何度も改訂されたらしい。
代名詞は、分離形(独立形)と接尾辞形があるが、分離形の使用は稀である。

分離形は強調形と通常形の二つがある。
強調形emmë(私たち), elyë(あなたたち), entë(彼ら)
後期では形が変わったという。tûto, sîse, atta

「私は彼を愛する」は、melinyesまたは、melin séになる。後者melin séは「彼」を強調するための文語表現である。
「私は彼らを愛する」は、melinyetまたは、melin té

後期クウェンヤでは、彼・彼女といった三人称の性差は失われている。
後期クウェンヤでは主格と対格の弁別が失われたので、主格形で対格を表すこともあった。

utúvie-nye-s 見つけた(完了)-私-それ 「私はそれを見つけた」
utúvie-lye-s 見つけた(完了)-あなた-それ 「あなたはそれ(彼)を見つけた」
utúvie-lye-t 見つけた(完了)-あなた-それ 「あなたはそれらを見つけた」

初期ノルドールクウェンヤ語形 長主格 短主格 分離形 所有格 日本語
一人称単数 -nyë -n -nya
二人称単数親称 -tyë - tyé -tya
二人称単数敬称 -lyë - lyé -lya 貴方
三人称単数有生 -stë -s -rya/-ya 彼、彼女
三人称単数無生 -ssa -s -rya/-ya それ
非人称単数一致 nil - - nil
一人称複数包括 -lwë/-lvë - wé/vé -lwa/-lva (貴方を含む)私たち
一人称複数除外 -lmë - -lma (貴方を含まない)私たち
二人称複数親称 -ncë - (?) -nca 君たち
二人称複数敬称 -ldë/-llë - -lda/-lla 貴方たち
三人称複数有生 -ntë - -nta 彼ら、彼女ら
三人称複数無生 -nta - sa -nta それら
非人称複数一致 +-r - - +-ë/-r
一人称双数包括 -ngwë/-nquë - wet -nqua あなたと私
一人称双数除外 -mmë/-nwë - met -mma 彼/彼女と私
二人称双数親称 -xë/-ccë - tyet -xa/-cca 君たち二人
二人称双数敬称 -llë/-stë - let -lla 貴方達二人
三人称双数 -sto/-ttë - -twa それら二つ、彼ら二人
非人称双数一致 +-t - - +-t

分離形は通常分離形と、「e+長主格」からなるelyë, emmë, essë, elwëなどの強調接離代名詞がある。
強調接離代名詞は通常よりも強調したい時に用いる。

ノルドール族は追放以前から、口語では二人称親称を使わなくなっていた。
敬称が通常の意味で使われるようになったため、フェアノールがティリオンから追放された頃に新しい敬称であるtar(英語で言うsir, madam)が利用されるようになった。

Carilye tar あなたがやります、卿よ。
→Carilitar 卿がやります。

所有限定詞

所有限定詞(my, your, his, her)の類は接尾辞であらわす。

所有物
一つ 二つ 三つ以上
所有者 一人称 単数 -(i)nya -(i)nyat -(i)nyar
双数 -(e)nqua, -(e)mma -(e)nquat, -(e)mmat -(e)nquar, -(e)mmar
複数 -(e)lwa/-(e)lva, -(e)lma -(e)lwat/-(e)lvat, -(e)lmat -(e)lwar/-(e)lvar, -(e)lmar
二人称 単数 -tya, -lya -tyat, -lyat -tyar, -lyar
双数 -xa, -cca, -lla -xat, -ccat, -llat -xar, -ccar, -llar
複数 -nca, -lda, -lla -ncat, -ldat, -llat -ncar, -ldar, -llar
三人称 単数 -rya, -ya -ryat, -yat -ryar, -yar
双数 -twa -twat -twar
複数 -nta -ntat -ntar

atar 父 + (i)nya 私の → atarinya 私の父
atar 父 + (e)mma 私たちの → ataremma 私たちの父

指示詞

sina これ
tana あれ、向こう、あちら
enta あれ、向こう、自分にとっても相手にとっても遠いところ。未来の年をあらわす意味の「あの年」でも使う。
yana 「あの年」のように、過去の時間を示すときに用いる。
sana sana wende(あの乙女)で一例しか用いられていない。

前置詞

アルカ同様、前置詞が副詞的に用いられるらしい。
前置詞が屈折語尾に変化するパターンもあるらしい。

an i falmali = i falmalinna(r) 多くの波の上に

ala [場所]~を超えて、~の向こうに [時間]~のあとで
ama ~の上へ、~の上に
an ~の方へ、~に向かって、~の上に
et ~の前へ、~の外で
haila ~をはるばる超えて
haiya ~の遥か彼方に
han ~に加えて
ní ~の下に
no ~の下、~の上に、~の場所の後ろに、~の背後に
nu ~の下に
ono ~の前に、~の後に(時間)

接合前置詞

前置詞と人称代名詞が結合したもの

ótar あなたと共に(目上の人に使う)
ótari あなたと共に(主君に使う)
rámen 私たちのために

動詞

時制・相、主格や対格の人称によって屈折する。
人称形と非人称形の二つがある。
非人称形は真の主語を付けられない。非人称形はcarë(作る、行う、建てる、形成する)のように代名詞が付かない。
carir(作ること(複数))、carin(私は作る)は人称形である。

人称語尾を分離して使う場合は、動詞本体には数情報以外の接尾辞は付けない。
Cáranyë. 私は作っている
Cárammë. 私たちは作っている
Finwë cára フィンウェが作っている(現在)
Quendi cárar エルフたちが作っている

Essë cára. 彼/彼女が作っている。
Emmë cárar. 私たちが作っている。

主語が複数の時、複数の動詞を用いる。主語が接尾辞になっているときは-rを用いない。

Finwë carë. フィンウェが作っている。
Quendi carir. エルフたちが作っている
Carinyë. 私は作っている
Carimmë. 私たちは作っている
Elyë carë. 彼/彼女が作っている
Emmë carir. 私たちが作っている

後期クウェンヤでは双数の語尾-tを使う。
Nai siluvat elen atta. 二つの星が輝きますように

派生動詞(強)自動詞 根動詞(弱)他動詞
単数 複数 単数 複数
語幹 henta- 目にする car- 作る
アオリスト henta 目にする hentar 目にする care(cari-) 作る carir 作る
現在(継続) hentëa 目にしている hentëar 目にしている cára 作っている cárar 作っている
(アオリスト)過去 hentanë 目にした hentaner 目にした carnë 作った carner 作った
未来 hentuva 目にするだろう hentuvar 目にするだろう caruva 作るだろう caruvar 作るだろう
完了 ehentië 目にした ehentier 目にした acárië 作った acárier 作った

※クウェンヤのアオリスト
1.一般的な事実を表す。後期制アルカにおける通時時制-eに近い。
i carir quettar ómainen 人は声によって言葉を作る。

2.過去・現在・未来にわたることを示す。後期制アルカにおける通時時制-eに近い。
polin quete 私は話すことができる。

3.英語における進行相を含まない単純現在。クウェンヤの現在形は進行相のニュアンスを含む。

不規則動詞

いくつかの動詞は不規則活用する。

Auta i lómë! 闇は去っている。

混成活用
単数 複数
語幹 auta-,av-,va-(<wa-) 出発する、去る、消える、失われる、過ぎ去る
アオリスト ava 去る avar 去る
現在(継続) avëa, auta 去っている avëar, autar 去っている
(アオリスト)過去 vánë (< wánë), avantë 去った váner (< wáner), avanter 去った
未来 auva, autuva 去るだろう auvar, autuvar 去るだろう
完了 (a)vánië 去った (a)vánier 去った

繋辞・コピュラ・存在動詞

繋辞はna-を用いるが、余り使われない。時制や相の情報がなく、文脈的に自明な時は省かれる。

Eldar ataformaiti エルフたちは両利きである。/エルフたちは両利きであった
A mára Aはよい。/Aはよかった。

繋辞 存在
単数 複数 単数 複数
語幹 na- である ëa- ある
アオリスト na nar ëa ëar
現在(継続) nár ëa ëar
(アオリスト)過去 ner engë enger
未来 nauva nauvar euva euvar
完了 anaië anaier engië engier

否定

否定動詞ua-を非人称時制形の前におく。後ろには人称の情報が付く。
否定動詞というアイディアはフィンランド語の影響である。
口語では時制や相の情報は付属しないが、文語では完全な屈折をする。

carin 私は作る → uan care 私は作らない
cáran 私は作っている → uan cára 私は作っていない。
carnen 私は作った(過去) → uan carnë 私は作らなかった(過去)
caruvan 私は作るだろう → uan caruva 私は作らないだろう
cárië 私は作った(完了) → uan cárië 私は作らなかった(完了)

時制

過去・現在・未来がある。

現在は進行相のニュアンスを含むため、単純現在や一般的な事実、通事的事象はアオリストを用いる。

現在形が進行相のニュアンスを含んでいる。
また完了形が存在する。
過去完了や未来完了などの屈折形は用意されていない。

祈願:Nai ~するように
nai tiruvantes.彼らがそれを守るように

命令

動詞の前に命令接頭語áまたはaを付ける

á carë 作れ
A laita të! 彼らを祝福せよ
Á hyamë rámen! 我らのために祈れ

á vaはしばしばÁvaと綴られる。

Áva márië! 幸せに行け

禁止もÁvaを用いる。
Áva carë! 作るな。するな。

単独で使う場合は、aváまたはáváを用いる。
Avá やめろ。(あなたがやろうとしていることをすることを禁止する)

受動態

未設定

使役

未設定

敬語

未設定

形容詞

名詞の直前または直後につく。ラテン語のように修飾する名詞から離して配置して大丈夫ということない。
初期クウェンヤでは、名詞に対する格数一致による屈折があったが後期クウェンヤでは存在しない。

後期クウェンヤでは、単数形容詞の接尾辞は-a, -e, -ëa, -inaの短縮形-inである。
複数形容詞の接尾辞は、-e, -i, -ië, -inëである。
クウェンヤの形容詞は名詞のように用いることができ、名詞同様の屈折も可能である。

vinya 新しいもの(new)
vinyar 新しいものたち(news)

比較

比較は通常は、フランス語のplusに相当するláを用いる。

A (ná) calima lá B. AはBより輝いている。

いくつかの形容詞は不規則変化する。
mára 良い
arya より良い
i arya +属格 最も良い

A (ná) arya B. AはBより良い。

副詞

接続詞

ar/a/az/-yë AND と。-yëはラテン語のように後ろの方の語に付く
hya/hela/var OR または

感嘆詞

関係詞

数詞

基数 序数 分数
1 min, minë minya -
2 atta, tata attëa, tatya peresta, perta
3 nel, nelde neldëa, nelya nelesta, neldesta, nelta, nelsat
4 can, canta cantëa canasta, casta, cansat
5 lempë, lemen lempëa lepesta, lepsat
6 enquë enquëa enquesta
7 otso otsëa otosta, osta, otsat
8 tolto, toldo toltëa, toldëa tolosta, tosta, tolsat
9 nertë nertëa neresta, nesta, nersat
10 quain, quëean quainëa *quaista
11 minquë *minquëa minquesta
12 yunquë, *rasta *yunquëa yunquesta
13 yunquentë, yunquenta, *nelequë, *nelquë *yunquentëa, nelquëa *yunquentesta, *nelquesta
14 canaquë *canaquëa *canaquesta
15 lepenquë *lepenquëa *lepenquesta
16 enenquë *enenquëa *enenquesta
17 otoquë *otoquëa *toloquesta
18 toloquë, nahta *toloquëa *toloquesta
19 neterquë *neterquëa *neterquesta
20 *yúquëan, *yúquain *yúquainëa *yúquaista
30 *nelquëan nelquainëa *nelquaista
40 *canaquëan *canaquainëa *canaquaista
50 *lepenquëan *lepenquainëa *lepenquaista
60 *enenquëan *enenquainëa *enenquaista
70 *otoquëan *otoquainëa *otoquaista
80 *toloquëan *toloquainëa *toloquaista
90 *neterquëan *neterquainëa *neterquaista
144 hosta - -
1,000 húmë - -

挨拶

エルフの挨拶は声と手ぶり、または両方による挨拶がある。
たいていは会話の前に挨拶する。

敬称は男女を問わず、あちらの方を意味するTarを使う。ヌメノールではこのtarが王や女王の意味になった。tar-ciryatanのようにヌメノール王の名前で用いられる。

Namárië
口語の挨拶。または「さようなら」
á na márië(命令 繋辞 良さ)「良くあれ」の短縮形。

(Hara) máriessë!
ノルドール族の間での一般的な挨拶。
「幸福に(滞在する)」のような意味。

Elen síla lúmenn(a) omentielmo!
Elen síla lúmenn(a) omentielvo!
二人の個人または、二つの団体が道で出会ったときにする高貴な形式で非常に古く伝統的な挨拶。
「我らが道で出会う時、星が輝く」のような意味。

Áva márië! (幸せに行け)
Márienna! (幸福へ)
ノルドール族の間で最も一般的な「さようなら」の挨拶。

語法

方言

使用例

Namárië

Ai! laurië lantar lassi súrinen,
Ah! like gold fall the leaves in the wind,

yéni únótimë ve rámar aldaron!
long years numberless as the wings of trees!

Yéni ve lintë yuldar avánier
The long years have passed like swift draughts

mi oromardi lissë-miruvóreva
of the sweet mead in lofty halls

Andúnë pella, Vardo tellumar
beyond the West, beneath the blue vaults of Varda

nu luini yassen tintilar i eleni
wherein the stars tremble

ómaryo airetári-lírinen.
in the voice of her song, holy and queenly.

Sí man i yulma nin enquantuva?
Who now shall refill the cup for me?

An sí Tintallë Varda Oiolossëo
For now the Kindler, Varda, the Queen of the stars,

ve fanyar máryat Elentári ortanë
from Mount Everwhite has uplifted her hands like clouds

ar ilyë tier undulávë lumbulë
and all paths are drowned deep in shadow;

ar sindanóriello caita mornië
and out of a grey country darkness lies

i falmalinnar imbë met,
on the foaming waves between us,

ar hísië untúpa Calaciryo míri oialë.
and mist covers the jewels of Calacirya for ever.

Sí vanwa ná, Rómello vanwa, Valimar!
Now lost, lost to those of the East is Valimar!

Namárië! Nai hiruvalyë Valimar!
Farewell! Maybe thou shalt find Valimar!

Nai elyë hiruva! Namárië!
Maybe even thou shalt find it! Farewell!

参考資料



最終更新:2014年08月20日 17:31