天井裏のキューピッド

「くすん」
川平啓太の犬神ようこは、同じく彼の部屋の屋根で体育座りで鼻を鳴らしていた。
下ではきっと、黒焦げになった彼を同じく犬神のなでしこが手当てしているのだろう。
取って代わりたくてたまらなかったが、自分のやった手前そうもいかない。
でも。
「ケイタが悪いんだもん……」
まあ、なんてことのない、いつものことだったのかもしれない。
なでしこがお惣菜を持って訪れて、啓太が褒めて、そのままセクハラに至ろうとした彼を粛清して。
いつものとおり「ケイタのバカっ!」と叫んですいっと天井を抜けてきたのだ。
けれど。胸に去来する、大きな感情の波は、その程度では収まってくれなかった。
「なでしこちゃんはえらいな~、流石だな~」
彼がそう褒め称えると、なでしこもまんざらでない様子で微笑む。
どうしてなでしこばっかり。
自分だってご飯も、洗濯も、彼女の真似とはいえ練習したのに。
もっと褒めてほしかった。もっと意識して欲しかった。もっと。
「……私のこと、どう思ってるのかな」
自分だけを、見て欲しかった。
誰に問うたわけでもない質問は風に消え、ようこは膝の間に顔を埋める。
どれだけそうしていただろう。
ドアの開く音が聞こえた。ゆっくりとした足音が向こうへ消えていった。
それが聞こえてから十分待って、彼女は床を透過した。
案の定、そこには大量のタッパーと。
「お、ようこ。なんかあったか?」
にかっと笑う啓太だけが居た。
ようこはふっと微笑みを浮かべると、首を振る。
タッパーを積み上げて両手に持つと、顔が崩れる前に彼に背を向けた。
胸の中の燻りは、まだ消えていなかったから。
そしてそんな彼女を、何者かがじっと見つめていた……



「……というわけでして啓太さん、どうにかしていただきたいと」
「しるか! つーか、なんで当然のようにウチに居るんだあんたは!」
啓太が力いっぱい湯飲みを卓袱台に打ち付けた。
向かいに座った、マントにタキシードといった時代錯誤な正装をした男が彼をにこやかに諭す。
「まあまあ、同居人のよしみではないですか」
「お前が勝手に住み着いているだけだ!」
「ま~ま、いいじゃないケイタ♪」
「よくねぇよ!」
がーっと今にも噛み付かんばかりに吼える。
そして、今度は卓袱台に突っ伏した。
「ちくしょう……俺の人生どこで掛け違えた! 変態相手に茶を飲むなんて!」
「あなたも同類ということでしょうね、ムッシュー『裸王』」
「その名前で呼ぶんじゃねぇ~!」
がんがんと拳を打ち付ける。
「あはは、らおうらおう」
「お、ま、え、の、せいだろうがっ!」
まあ、これもいつもの光景だった。
変態紳士、通称『ドクトル』によると、彼のノゾキスポットの一つに悪霊が住み着いたらしい。
素人ではどうにも手出しできず、退治の依頼にやってきたのだ。
いや、やってきたと言うよりは降りてきた、の方が正しいかもしれない。彼は啓太の部屋の屋根裏に住み着いているからだ。
ドクトルはやんわりと微笑むと、啓太の肩に手を置いた。
「……啓太さん、あなたにとっても悪くない話だと思うのです、私は」
「ぜってーろくなことねぇ」
少し身を寄せ耳元に口を近づけ、ようこに聞こえないように気遣いながら、
「成功の暁には、依頼料としてスポットの一つを提供いたしましょう」
啓太の目の色が変わった。
「な、ほ、ほんとか?」
「ええ。あ、もちろん私が質を保証いたします。啓太さん、OLはお好きですかな?」
こくこくと子供のように頷く啓太。
横からようこが話に参加できず、ね~と彼の袖を引っ張っていた。
「とあるオフィスの更衣室ですよ。業界でも名高いスポットです」
「よ、よし、俺に任せろ! そんな悪霊三秒で片付けてやらぁ!」
鼻息荒く啓太が拳を握った。
ドクトルはにっこり笑って、再び身を引いた。
「受諾、感謝申し上げます」
そして啓太に見えぬよう、こつん、こつんと二度だけ卓袱台を指で叩く。
その瞬間。
「あっ!」
啓太の袖を引いたいたようこが急に立ち上がった。
「おわっ! よ、ようこどうしたっ!?」
会話の内容が内容だけに、少し腰の引けている啓太。
だがそんな啓太に構わず、早口にまくし立てる。
「ケイタ、今晩の分のお買い物しておかなきゃ!」
「そ、そうか? いってくりゃいいじゃねえか」
ようこはたん、と軽やかに立ち上がると、申し訳なさそうに手を合わせた。
「ごめんね、すぐ帰ってくるから」
「いや、それはいいんだけどさ……」
突然のことに困惑する啓太。
だがそんな彼をよそに、ようこはいそいそと準備を整えると、
「それじゃ、いってくるね~」
卓袱台を蹴って天井裏を透過、姿を消した。
啓太はとりあえずほっと安堵の息を漏らす。
「なんだぁ? まだまだ時間あるんだから、客も居ることだしゆっくりすりゃいいのに」
「おや、啓太さん。私は客として認められているのですか?」
「……悪い、そこだけ前言撤回させてくれ」
何がおかしいのか、ドクトルはくすくすと笑った。
啓太はバカにされたようでむっとなる。これ見よがしに溜息をつくと、
「とりあえず! 現場を見なきゃ何もわからん。俺を案内しろ!」
ふと。
ドクトルの目が細くなった。
急な態度の急変に、啓太はぎょっとする。
「な、どうした?」
「いえ……少し、関係ないお話がありまして」
「ん?」
先ほどまでとはまったく違う、非難にも、説教にも似た空気だった。
「啓太さん。私のような人間が言うのは間違っているのかもしれませんが」
「……」
「どうしてそこまで、女性を追われるのですか?」
ふん、と鼻を鳴らした。
「確かにあんたの言えるような話じゃないな」
「ええ。少々のお節介です。……どうなんですか?」
「……ようこのことか?」
ドクトルは胸にシルクハットを当てると、もったいぶったように頷いた。
「ええ」
啓太は気まずそうな、教師に咎められた生徒のような顔をした。
「実を言えばな」
「はい」
「俺にもわからねえんだよ」
啓太の目は、遠くを見ていた。
ドクトルは茶化すことも、話しかけることも無く、ただ彼の言葉を待っていた。
しばらくの沈黙の後、耐え切れずに啓太がさらに漏らす。
「今朝さ、なでしこちゃんに説教されたよ」
「私も見ておりました」
「そっか。なでしこちゃんさ、怒ると怖いのな」
「そうですね。それに、とてもよい観察眼をしておられます」
啓太がこちらを振り返った。
その瞳に真剣味を認め、ドクトルはふっと唇を緩めた。
「ここではようこさんが戻ってきては困ります。参りましょうか」



啓太の部屋の屋根裏。
すっかり居住空間としての機能を充実させたそこに、啓太は舌を巻いた。
「いつの間に侵略されてるんだウチは……」
「なかなか居心地がいいのですよ、こちらは」
ドクトルは魔法瓶からお湯を注ぎながらにっこりと微笑んだ。
呆れたように啓太ははっと鼻で笑う。
カップの中身をスプーンでかき回しながら、ドクトルは座るように促した。
思いのほか高級そうな座布団に驚きながら、啓太は腰を下ろし半目で見つめた。
「んで、どうするって?」
「……ようこさんは、どうも大人になりきれていない節があるようですね」
「ああ。まあ、そうかもしれねえな」
何を思い出したか、薄く啓太は笑った。
「自分の気持ちをうまくコントロールできていない。そして、うまく伝えることもできない」
「……」
いつの間にか、再び責めるような口調に戻っていた。
だが、目だけは優しい瞳をしていた。
「面と向かっては彼女も言えないでしょう。そこで」
一旦切って、床に目を向ける。
そこにはほんの僅かだが、光漏れる穴があった。
「私が訊いてみましょう。ようこさんの本心をね」
「俺は、どうにもあんたが信用できないんだけどな」
胡坐を崩し、ぐいっと顔を寄せる。
「だが、今回ばかりはしょうがねえ。……本当なら全部俺の仕事だ」
「抜けているようで、やはりよくわかっておられるのですね」
「わかっていても出来ないのは……ま、俺もガキなのかもな」
ドクトルは何も言わず、ただ微笑んだ。
『ただいま~』
突然ドアが開き、ようこの声が聞こえた。
啓太は試合前のボクサーのように両拳をぶつける。
「さぁて、作戦始めますか」
『ケイタ~? 居ないの~?』
穴に目を押し付ける。
小さな穴だったが、思いのほか広範囲が見えた。
ようこは名前を呼びながら居間をきょろきょろしていた。
「んじゃ、頼むぜ」
「ええ、お任せください」
そう言って、ドクトルがマントを翻しかけたその時。
『ケイタ……』
ぽすん、とようこが啓太のベッドに倒れた。
愛おしそうに、とろんとした目で掛け布団をぎゅっと抱きしめる。
そして、その右手が、そろそろと胸元へ……
「えっ!?」
突然の事態に、啓太は固まってしまった。
彼女はそんな彼に気づくこともなく、ぷちぷちとブラウスのボタンを外してゆく。
『ケイタぁ……』
間もなく外気に晒される、ブラに包まれた豊満な胸。
それをこねるかのように、ぐにぐにと手でまさぐる。
「ちょ、ちょっとこいつは」
ごくりと生唾を飲む。
『あ、ん……はぁ』
少しずつ、彼女の肌が赤みを帯びてきた。
しばらくそうしていたが、やがてブラのホックに手を掛ける。
ぷち、と小さく音がして、押さえつけられていたそれがゆっくりと解放された。
「……」
啓太はもはや、声を出すことができなかった。
ようこはすっかり尖った胸の先端を、指で挟む。
『んぁ……』
声に艶っぽさが掛かった。
指が少し動くたびに、声が漏れる。
『ぁ……ぁふ……ケイタぁ……』
彼の名前をうわごとのように呟きながら、乳首をぎゅっと圧迫する。
『切ない……よぉ……』
まるで、気持ちごと掴むかのように。
鋭く尖った爪がそこに引っかかり、一際高い嬌声が上がった。
『ふぁああっ!?』
びくん、と身体が痙攣する。
荒い息を吐きながら、ようこは今度はスカートに手を掛けた。
スカートのホックが外れ、するりと布がベッドに落ちる。
啓太は息を呑んだ。
『あ……』
ようこは己のそこを見て、赤面する。
しっとりと濡れたショーツが透け、茂みが僅かに姿を晒していた。
彼女は布地の上から指を当て、ゆっくりと上下に動かす。
『ふあ……ん、ぁ……』
涙を浮かべた目が、たまらなく扇情的だった。
無意識のうちに指が少しずつ深くなってゆく。
『はぁ……ん……』
じゅわ、とさらに愛液が表面に溢れ出した。
もはや彼女に理性はなく、盛ったケモノそのものだった。
腰を少し浮かせると、すっかり濡れそぼったショーツを下ろす。
しっとりと濡れた毛が、てらてらとエロティックに光っていた。
指を二本揃えて差し込むと、ぐちゃっと粘性の音が聞こえる。
『んんんっ……』
羞恥に顔を染め、ゆっくりと抜き差しをするようこ。
さらに親指を立てると、入り口ですっかり肥大した陰核を責め始めた。
『………っ!』
比べ物にならない刺激に、きゅっと唇を噛む。
指が出入りするたび、親指がそこに引っかかって断続的に刺激をもたらす。
『ケイタぁ……ケイタぁ……』
愛しい人の名を呼びながら、行為に没頭する。
そして、爪が陰核に深々と引っかかったその瞬間。
『あ……あ、ぁあああああああああっ!』
がくがくと身体が震え、そしてぐったりとベッドに崩れ落ちた。
同時にどろん、とケモノの尻尾が飛び出す。感極まったため、集中が途切れたのだろう。
はぁはぁと息を漏らしながら、ぼーっとした目で虚空を見つめている。
啓太は一部始終を見て、自分の右手が無意識に股間へ向かおうとしていた。
だが、その手を横から掴まれる。
「……啓太さん。不慮の事態ではありますが、ここはあなたの出番です」
「……」
ドクトルは珍しく、にかっと歯を見せて笑った。
「彼女なら大丈夫。さあ」
「お、おお」
既に啓太の頭は正常でなかった。
まあ、少なからず意識している女の子が自分の名を呼びながら自慰行為をしておれば、誰でもこうなるだろう。
ドクトルの言葉を特に不審に思うこともなく、啓太は床板(天井板)を外すと、一息に下へ飛び降りた。
彼を見送ると、ドクトルは誰に言うでもなく呟いた。
「ご武運を祈りますよ、マドモワゼルようこ」



「ようこ」
彼女に呼びかけると、先ほどまでぼんやりしていた目に光が戻った。
「け……ケイタ?」
しばし無言の後、状況に気づいたか飛び上がった。
慌てて脱ぎ散らかした服と布団を手繰り寄せ、胸元に抱く。
啓太は無言でゆっくりとようこに近づいていった。
「ど、どうしたの?」
「ようこ、これはなんだ?」
指差す先。
そこにはべったりと愛液が染み込んだ大きなシミがあった。
ぼっと火が付いたように真っ赤になる。
「えと、あの」
「ようこ」
もう一度、名前を呼ぶ。
びくりと身を震わせ、彼女は黙った。
啓太が腕を伸ばす。
触れる。
腕を背中に回すと、啓太は布団ごと彼女を抱き寄せた。
「けい、た?」
「……俺さ、ずっと言えなかった」
「……」
「やっぱりさ、俺さ」
僅かに腕を緩め、まっすぐに彼女を見つめる。
「お前のこと……好きだ」
ようこがはっと息を呑む。
そんな彼女の様子に、苦さの混じった笑みを浮かべた。
「悪いな、自分の気持ちも、お前の気持ちもわからなかった」
「……」
「今朝、説教されちまったよ。んで、ドクトルにも背中を押された」
「……」
急に照れが出てきて、つっと視線を逸らした。
「だからさ」
ぎゅっともう一度固く抱きしめる。
胸元に、吐息の熱さが染み込んでくる。
「ケイタ」
くぐもった声が漏れた。
顔を押し付けたまま、小さな声で。
「……いいよ」
啓太は気づかなかった。
彼女がちろっと赤い舌を出していたことに。



「しっかし、まさかお前が……くう」
先端を舌が触れ、妙な声が漏れた。
「そんなにえっちな奴だったとはなぁ」
「そ、そんなことなひよ、けひた」
ちゅ、ちゅ、と唾液が跳ねる。
その度に刺激が彼を襲い、ぞくぞくと快楽が波打つ。
ようこはそんな彼の様子に満足したように、今度は両腕を上下させ始めた。
弾力のある胸が押し上げられ、ぎゅっと彼のペニスを圧迫する。
慰めるように舌でちろちろ舐めながら、今度は拘束を緩める。
「ぐお……」
ある種じらされていた彼にとって、もはや限界は間近だった。
ようこもそれを感じ、先を吸い上げながら一気に胸を持ち上げた。
刹那。
「っ!」
肉棒が大きく脈打った。
ようこの顔面を押し上げるような勢いで、びゅっと熱い液体が飛び出した。
さらに何度も脈打ち。どくどくとたっぷり時間をかけて、溜まりに溜まった精液を吐き出す。
彼女は顔面に付着したそれを指で掬うと、ぺろっと舐めた。
「……にがい」
いーっと顔をしかめる彼女を見て苦笑する。
「いや、無茶するなって」
近くにあったティッシュを数枚まとめて取ると、こびりついた液を丁寧に拭き取ってやる。
一仕事終えた後のように、お互い大きく息をもらした。
まさかようこが、小悪魔的な笑顔で、
「ケイタも、溜まってるの? してあげようか?」
と志願するとは思わなかった。しかもリクエスト通り胸で。
胸に付いた分も綺麗に拭き取ってやると、嬉しそうに喉を鳴らした。
「ね、ケイタ」
ずいっと身を寄せて、甘えるような声で。
「今度は二人で、ね?」
「おう」
どちらから近づいたわけでもない、軽いキス。
そして啓太は、彼女を軽く押した。
抵抗なく、ぽすんとベッドに身体が沈む。
啓太は早速彼女の秘唇に指を這わせた。
ぐち、と粘性の音が聞こえる。
「まったく、こんなにびしょびしょにして」
「や、やだぁ……」
指を二本揃え、ゆっくりと出し入れする。
意外にそこはきつく、第二関節へ至る前にかなり抵抗された。
進入をあきらめ、そこでゆっくりとかき回してやる。
「ん……ぁ……」
シーツを固く掴み、顔を背けるようこ。
啓太は空いたもう片手を、彼女の尻尾に添えた。
優しく握ると、しゅるしゅるとしごいてやる。
「んんっ! ぁ……だめっ!」
「何がダメなんだ?」
右手の指はさらに激しく蜜をかきだす。
左手はフィニッシュを迎える直前の自慰のように高速で擦る。
異なる程度、位置、感触の快楽に、再び身体ががくがくと震えはじめた。
「せ、切ないよケイタぁ……いっちゃ、だめ、きちゃう!」
すっと。
両手が抜かれ、彼女の性感帯がフリーになった。
「え……」
急に刺激が途切れ、彼女の目がお預けされた犬のそれになる。
啓太は無言のまま、反りかえった己の象徴を再び取り出した。
それを見て、ようこはくすっと笑う。
「元気になった?」
啓太はいそいそと財布に常備していたゴムを取り出し、器用に一度ではめた。
「ああ。いくぞ」
「うん、きて……」
濡れそぼった恥部に、棒をあてがう。
そして、少しだけ先端を差し入れた。
「んぁっ!?」
そして、一気に貫く!
途中で一段階引っかかり、そして強烈な締め付けと共に奥へ刺さった。
ようこの瞳から、一筋涙がこぼれた。
「だ、大丈夫かよ?」
受け入れたことのないサイズを無理やりねじ込んだ痛み。
処女膜が無いとはいえ、流石に初めてで一気はまずかったか……
だが、ようこは健気に首を振る。
「ううん、私は大丈夫だから……」
涙を指で掬い、微笑んだ。
啓太もそんな彼女に後ろ髪引かれながら、それでも続けることに決める。
腰を軽く引き、再び奥へ叩きつけた。
「きゃ……ふあっ!」
一際大きな嬌声。
彼は彼女の身体を回転させて膝を付かせ、バックの体勢に持ち込む。
そして、もう一打ち。
「んんっ!」
尻と腰がぶつかり、ぱんと大きな音が鳴る。
さらに繰り返し、ぱん、ぱんと音が響く。
「け、ケイタ……そろそろ……」
「ああ、わかった」
彼もまた、一度やった後とは思えないほど滾っていた。
速度を上げ、小刻みに打ちつける。
「ぁ、ふぁ! あ! んっ!」
だんだんと肉の締め付けがきつくなっていく。
ぞくぞくと何かが駆け上がってくるのを感じながら、ピストンを繰り返す。
そして。
一際大きく引き抜き、奥へと貫いた瞬間。
「あ、あああ、あああああああああっ!」
ようこが絶叫した。
蜜が大量に溢れ出す感覚と共に、ぎゅうっとペニスが絞られる。
そして彼もまた、限界を迎えた。
「ぐおお……っ!」
どくどくと、ゴムの中へ熱さを吐き出してゆく。
たっぷり数秒待ってから、ずるっと柔らかくなったそれを引き抜いた。
ようこはぐったりした、だが安堵した顔で微笑んだ。
「……ケイタ」
「ん?」
啓太もまた、その横に四肢を投げ出して倒れている。
「……大好き」
「俺もさ」
ちゅ、ともう一度フレンチキス。



突如がたん、と物音がした。
啓太がびくっとして、そちらを振り返る。
そこには……
「け、啓太様? 何をなさっているんですか?」
なでしこが信じられないといった顔でこちらを見つめていた。
啓太は己の状況を思い出し、
「お、おわっ!? な、なでしこちゃん!?」
慌てて布団を引き寄せ、股間を隠す。
だが、今度は全裸のようこがごろんと布団から飛び出した。
なでしこは口元に手を当てたまま、じりじりと後ろに下がってゆく。
「そ、そんな……今朝お説教したからって、こんな早く」
「ち、違うの! これは!」
「ケイタがケダモノに帰って私を襲ったんだよね♪」
いつの間にか、胸を押し付けるようにしてようこが背中にしなだれかかっていた。
首を振って、さらに距離を開くなでしこ。
おもしろがってあること無いこと吹き込むようこ。
否定すればするほど墓穴にはまる啓太。
そんな彼らを見つめながら。
「やはり、見ている分で十分楽しい人たちですね」
と、ドクトルが紅茶を啜っていた。
ようこがその視線に気づき、こっそりとウインク。
彼もまた微笑んで、ウインクで返した。
「目撃者も呼びましたし、これで後には引き返せませんよ、啓太さん?」
ようこを焚きつけ、啓太を欺き、なでしこを呼んだ黒幕は、くす、と声を漏らした。
「さて、次はなでしこさんに仕掛けましょうかね」

[06/09/23-ようこ好き-2-386~400]
最終更新:2006年10月16日 03:16